大手企業で新規事業に携わりながらスタートアップに挑戦する佐世保高専卒業生のストーリー



大手企業で新規事業に携わりながらスタートアップに挑戦する佐世保高専卒業生のストーリー
  • 原崎 芳加
  • 佐世保工業高等専門学校
  • 電気電子工学科 2013年卒業 卒業
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略歴
佐世保高専 電気電子工学科 2013年卒業

東京農工大学 工学部 電気電子工学科 2015年卒業

東京農工大学大学院 生物システム応用科学府 2017年卒業(修士)

横河電機株式会社(2019年10月現在現職)

株式会社LAplust(2019年4月に起業)



建築系の父の影響で幼少期からモノづくりが好きだった。高専時代は文武両道でプロアクティブに活動しながら、人と人の繋がりに興味を持ち始める。修士課程で研究の傍参加したビジネスプランコンテストで「マーケティング」という概念に出会い、現在は大手メーカーで「モノづくりの視点を持ったマーケッター」というポジションに挑戦しながら、さらに高専時代の仲間とスタートアップも立ち上げている。



新卒入社の大手メーカーで新規事業に挑戦

- 佐世保高専卒の原崎さんです。よろしくお願い致します!

よろしくお願いします!

- 現在は横河電機で新規事業をやっているんですね。

IoT新規事業のサービス企画をメインに、簡単・お手軽なIndustrial IoTを提供する新会社の立ち上げに挑戦させていただいております。

- 大手メーカーで新卒で新規事業って、原崎さんにとっても会社にとっても大きな挑戦ですね。どんな経緯で、具体的にどんなお仕事をしているのですか?

背景からお伝えすると、会社が100年を迎えるタイミングで、新規事業への挑戦を決意されていました。私は「モノづくりの視点を持ったマーケッター」というポジションに挑戦するために就活をしていたのですが、私の想いが届いたのか、新規事業のポジションに配属してくれました。新卒で現場を知らない若手にこのポジションを与えてくれた会社にはとても感謝しています。
いま会社として挑戦している新規事業は「Industrial IoT」という分野で、これまで計装業界の顧客企業に計測器や制御機器を提供していたところから、顧客企業の「現場の品質・工程管理をIoTで支援する」というところまで幅を広げようというものです。例えば、産業用ポンプの遠隔診断や、簡易無線水位監視サービスなどです。これまで人が介在してアナログ的に品質担保していた部分を、SaaSの情報基盤を提供することで業務の効率化や品質向上に貢献できると考えています。私の具体的な仕事としては、だれに、どんなサービスを提供すれば喜んでいただけるか?といったサービス企画の立案・仮説検証やどうやって売ることで効果的に価値提供ができるか?を考える販売促進企画などです。

- めちゃくちゃガチの事業開発ですね!顧客企業も名だたる大企業が多いと思いますので、仕事の難易度が高そうですが如何ですか?

自社だけでなく顧客企業も巻き込んだ事業開発なので困難が多いのは事実です。例えば、顧客企業の経営層に「一緒にトライしたいと」思っていただいても、現場のエンジニアの方々には「変なことしないでくれ」と思われていたり。また、クラウドサービスやIoT分野の知識など、自社の強みだけでは達成できない「飛び地の事業開発」であることもあり、一つ一つのプロセス設計や意思決定が結構大変です。でも、このような規模の事業開発に身を置ける機会は何度もあることではないので、全力で仕事に取り組んでいます。

日常生活にモノづくりがあったことから自然と高専に入学

- 素敵な挑戦をされているのですね!工学を学んでいたところからいまの挑戦にどのように行き着いたのか気になります。モノづくりはいつから好きだったのですか?

小さいころから建築出身の父と実家の外壁修理を一緒にやったり、小学校の自由研究で「ハムスターのための釘を使わない2階建ての家」というテーマを持ったモノづくりをしていました。モノづくりは父の影響で幼少期から自然とやっていて、制作物が完成した時には出来栄えをよく褒めてくれたので物心ついた時には作ることに楽しさを感じていました。 高専についても、私自身は普通高校に進学するつもりだったのですが、父が高専を紹介してくれたことがきっかけで佐世保高専に入学することにしました。実家から近かったことも大きな要素です。

- 日常生活にモノづくりがある環境だったのですね。高専に入ってからはどんな生活をしていましたか?

クラスの仲間に恵まれや初めて見聞きするモノづくりの知識に触れ入学した瞬間から「こんなに楽しいところはない!」と思いました。ラグビー部に入部して、4,5 年生では高専大会で全国3位の成績を収めました。学生会長もやりました。高専生って結構クラスの外に出てこない人が多いなと思い、学生全員が楽しく交流できないかと考えました。そして、バレンタインイベントを企画・実施したりしていました。新しい知識に触れることが楽しく勉強も一生懸命やりました。卒業研究では水中ロボットの研究に取り組みました。先輩がハード面を作り上げた結果を引き継ぎ、マイコンへの機能追加などを担当しました。

- 全力で高専生活を楽しんだのですね!その後はどんなキャリアを歩んだのですか?

就職と進学を並行して検討していました。学科の先生全員に「どうしたら良いでしょう?」と人生相談をしたところ、全員が進学を勧めてくれたので進学を選びました。当時は生き物も好きだったので、生物と工学の融合領域を学べる学科を探しました。農工大と豊橋技科大で迷ったのですが、これまでにないよりオープンな環境で校外の人との交流の機会を求め、農工大に推薦で進学しました。 学部時代は高専の延長線上だったのですが、修士では光工学と生物工学に関する研究を行いました。可視光を用いた酸素飽和度の測定をテーマとして動物実験を行い、医療分野の基礎研究に従事することができました。やりたい研究ができたことは嬉しかったのですが、高専時代と比べると「ガツガツ手を動かせ」という雰囲気がなくて、少し手持ち無沙汰な面もありました。

モノづくりの視点を持ったマーケッターの誕生

そこで、文科省が主催していた次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)に応募し、外の世界にも挑戦の機会を求めました。EDGE-NEXTでは、投資家や企業役員から様々な講義を受けながら事業創造に挑みました。それまでモノづくりの世界で生きてきたのですが、プログラムでは「マーケティング」「顧客ニーズ」「ビジネス」という今までの人生で出会うことのなかった新しい概念に触れて、その魅力と自身の無知っぷりに衝撃を受けました。その結果、モノづくりも当然面白いけれど、それを使う人の立場に立ってみるのも面白いかも知れない。周囲はモノづくり人材で溢れているので、自分がそれを支えるマーケティングのプロになれば、チームとして大きな成果を出せるのではと思うようになりました。

- どこまでも外向きに挑戦する人なのですね。理系畑の経歴からマーケティングの仕事を勝ち取るのも難しそうですね。

就活では医療系、商社、メーカーなど15社を受け、そのうち8社から内定をいただくことができました。その中で、「周りに優秀な先輩がいるか」「若手にチャレンジが回ってくるか」「理系の自分にマーケティングの仕事が回ってくるか」という軸で考え抜いた結果がいまの会社になります。内定後の面談で人事の方に「ぶっちゃけ何がやりたいの?」と聞かれ、素直な想いを話したところ、いまの部署への配属を約束してくれたのです。 入社後も先輩方がフラットな関係性で接してくれて、入社2ヶ月後から「自分で考えてやってみなよ」と言ってもらえる環境でした。もちろん、0から仕事を立ち上げる困難に直面することもありますし、EDGE-NEXTで学んだこととリアルビジネスの差に凹んだりもします。それでも、なかなかできない挑戦をさせてもらえていることに感謝しています。

- そうやっていまの仕事に行き着いたのですね。常に全力で挑戦する姿がカッコいいです!

さらなる挑戦としてスタートアップを立ち上げ

- 最近はスタートアップの立ち上げにも挑戦しているのですか?

今年の春から、高専で同期だった2人とチームを組んでAI系のスタートアップ「株式会社LAplust」も立ち上げています。

株式会社LAplust

- 横河電機で新規事業を推進しながらスタートアップもやってるのですね!

僕以外の2人は完全にスタートアップで働いていますが、僕は横河電機で学ぶことが多いので二足のわらじでやらせてもらっています。

- どんな経緯で、どんな事業をされているのですか?

代表の田中とは高専卒業の時から「いつか一緒に何かやろう!」という話をしていました。一昨年、田中が独学で機械学習を学んでいる事を知り、そんなに本気ならばと、長崎で働く彼を東京に呼んで起業の準備に取り掛かっていました。そうしている中で、たまたまTwitterで井手が仕事を辞めて世界を回っていることを知り、アクティブな点に感動して誘って今のチームが誕生しました。同じクラスで、全員大手企業に入った組ですが、それぞれ強い想いをもって今の環境に身を置き、開発に邁進しています。
事業の話をすると、まず足元を固めるために「AIによる金融商品の運用システム」を開発し、パートナー企業に販売していただいています。本当にやりたいことは農業用ドローンシステムの開発なのですが、まずはしっかりと稼ぐ事を意識して地道に研究開発を進めています。

- 堅実に稼ぐために「AIによる金融商品予測システム」を開発できる時点でハイレベルなチームだとわかります。2つの挑戦、どちらも素敵な結果を目指して頑張って下さい!

学生へのメッセージ

- 最後に、これから世に羽ばたく高専生にメッセージをお願い致します!

「なにかにチャレンジしたい!」と考えている方向けに、1点だけ!
 ・だれでもいいので高専以外の人に10人会ってみる
ことをオススメします。
私は、高専以外の人と話す機会が増えてから、自分の好き・嫌い・得意・不得意が明確になりました。また、今まで知らなかった世界・知識に触れる機会が増えました。そのとき、「なんかやりたいなぁ」という抽象的な想いが「〇〇したい」という具体的な意志に変化しました。自分がどんな人なのか多少なり理解できたからだと思います。どんなことでもいいので「〇〇したい」と想えたら、あとは動いて、継続するだけです。「なにかにチャレンジしたい!」と考えているあなたは超希少種です。社会的に大きな価値があります。すでに「モノづくり」という何物にも代えがたい貴重なスキルを持っている高専生の皆さんのチャレンジが増えることで世の中がなお良い方向に転がっていくと思います。

ー 素敵なコメントありがとうございます!

こちらこそ、ありがとうございました!



編集後記

幼少期からアクティブな人生を送ってきた原崎さん。好きなモノづくりにしっかりと取り組みながらも、積極的に外の世界に飛び込むことでマーケティングやビジネスのスキルを習得した点がユニークで素晴らしいと思いました。「高専生はプロダクトは強いけど見せ方が…」と言われることは結構あるので、みなさんも外の世界に飛び込んで、エンジニアリング以外の知識やスキルを身につけては如何でしょうか?
2足のわらじでお忙しい中インタビューに応じてくださった原崎さん、改めてありがとうございました!

取材・文:りゅーかん(@RyuhiKanno