大企業からベンチャー企業に転職。「マーケター」という仕事に進んだ函館高専生のストーリー



大企業からベンチャー企業に転職。「マーケター」という仕事に進んだ函館高専生のストーリー
  • 室谷 良平
  • 函館工業高等専門学校
  • 情報工学科 2009年 卒業

略歴
函館高専 情報工学科 2009年卒業

オリンパスメディカルシステムズ株式会社

株式会社リビジェン

株式会社ウェルクス

株式会社ホットリンク



函館高専を卒業し、大手医療機器メーカー「オリンパスメディカルシステムズ」に入社。そこから、ITスタートアップ企業や、人材紹介会社などを経て、現在は東証マザーズに上場しておりSNSマーケティング支援会社のホットリンクのマーケティング部長をしている。高専では、コンピュータ・サイエンスを学んでいた。このような幅広い知識を生かして、現職のマーケティングという仕事に勤めている。なぜ、高専からマーケティングの道に進んだのだろうか。そんな室谷さんに話を伺った。



前職のノウハウから、現在に活かされていること

- 函館高専卒の室谷さんです。よろしくお願いします!

よろしくお願いします。

- 現在、株式会社ホットリンクでの役職を教えてください!

マーケティング部長をしています。

- 入社した頃から部長だったのですか?

マネージャーとして去年の2月に入社しました、そこから半年ほどで部長職になりました。

- なるほど。高専卒でマーケターは、珍しいと思うのですが、前職もマーケティング系の会社だったんですか?

会社自体は、保育や福祉などの人材紹介が主力の事業の会社です。そこでマーケティング職として勤めてました。人材紹介は検索やウェブサイト改善やオンライン広告などのWEBマーケティングノウハウが重点領域だったので、ITのバックグラウンドがキャリア的にかなり強みになりました。

- 現在はどのような仕事、サービスをやっているんですか?

ホットリンクとしてのBtoBマーケティングや、SNSコンサルタントとしてお客様のマーケティング支援を行っています。サービスでは、Twitter、Instagramなどのソーシャルメディアを使用して、どのように売上につなげていくかなどの戦略設計、提案などを行っています。実際にSNSの運用も一部やっています。

- 御社はSNSマーケティングの先駆けの会社だとお聞きしましたが、御社ならではの工夫していることなどはありますか?

SNSマーケティングの業界には、もともと、フォロワーを増やしたり、ただ単にバズらせたりする会社はありました。でも、ホットリンクはKGI/KPI設計から「こうやったら売れるよね」というところまでしっかりと責任を持つという違いがあります。また、分析に関してもネットワーク・サイエンスや自然言語処理などの技術などを活用し「こういうクチコミを強化すれば販売につながる」の因果関係が出せているところが、特徴です。例えていうならば「SNSの戦略コンサル」としてお客様のマーケティング活動のご支援をさせていただいています。依頼された会社のマーケティングの全体戦略から入ってSNS活用についてアドバイスをしています。

- SNSの戦略コンサル...いいですね!学生にもわかりやすい取り組みなど、言える範囲での成果はありますか?

シャトレーゼというお菓子のお店があるのですが、SNS内外でもクチコミを増やすことをやっています。例えば、シャトレーゼのアカウントが、お客さんのクチコミをリツイートして、情報伝播を促進したり、クチコミをしてくれそうなフォロワーをデータ分析で特定して、広告配信のターゲット設計するなども行っています。結果、我々がご支援開始以降に売り上げがアップするなど、成果も出ています。

- 確かに、ただ単にバズるよりも、フォロワーによるクチコミの影響の方が販売につながりますもんね。

そうですね。例えば、お菓子系のことだったら、TwitterやInstagramで、関連するキーワードを調べると、どのようにクチコミが書かれているかかを分析することができます。そのような分析したデータを使うことによって、顧客を広げることができるんです。

- なるほど...。

そのような技術を使えることが弊社の強みですね。

- SNS活用とデータに精通しているからこそできる分析ですね。

そうですね。アカウントのフォロー先を調べることによって、その人の興味関心が分かるので、どのようなフォロワーを抱えるとよいかなどを分析することができるんですよね。それらのツールを使って、ターゲティングに活用しています。

転職を繰り返し、「マーケター」という仕事に就いたワケ。

- それでは、話を変えて室谷さんの過去のことについて質問をしようと思います。函館高専に入ったのはなぜですか?

もともとインターネットが好きだったんですよね。掲示板とかヤフーゲームとか2ちゃんとか。その流れでコンピュータに興味をもったのと、家庭的な事情で大学には行けなかったので、高専を選んだという理由もあります。高専には寮や奨学金もありますしね。

- そうなんですね。学生時代はどんな感じで過ごしていたのですか?

普通に寮生活をしていましたよ。夜中に寮から脱走して、コンビニに行ったり(笑)、部活やバイトもしました。三年生の時から軽音楽部に入り、音楽にハマっていましたね。その流れで、音楽関連の研究に取り組んでいる研究室に入り、卒論は演奏楽器推定をテーマにやっていました。

- 勉強面はどうでしたか?

正直、一年生の頃は落ちぶれてて、45人中35位くらいで、下から数える方が早いなんて初めての経験でした(笑)。しかし、二年生になってから寮のルームメイトが変わり、途端に成績が上がって、順位が上から数えた方が早くなりました。環境って大事ですね(笑)。

- なるほど(笑)。ルームメイトってけっこう大事なんですね。

そうですね。やっぱり一緒にいる時間が長いので、良くも悪くも影響されるんでしょうね。単純に勉強する時間が変わりますから(笑)。また、科目で言うと自分は情報工学科に入った割にプログラミングが苦手だったので、得意な数学や英語で補っていましたね。

- 高専からは直接就職されたのですか?

そうです。医療機器メーカーで内視鏡は世界トップシェアのオリンパスメディカルシステムズに就職しました。私はその中でも医師・看護師向けの内視鏡業務支援システムの品質管理に携わっており、ハードウェアからソフトウェアまで担当していました。ソフトがフリーズするなどの障害が報告されたらアプリケーションログの解析をしたり、ハードディスクが故障したら現物を検証したり、ネットワーク障害が起きればサーバーログ、アクセスログを見るなど、不具合対応をしていました。

- オリンパスメディカルシステムズを選んだ理由は何ですか?

安直な理由ですが、高専の求人募集にも載っていたなかで大手だったからです。自分が就職活動をした頃は、リーマンショックの手前だったので、今思えば本当に運が良かったなと思います。

- ギリギリだったんですね。

そうなんです。自分の頃は、新卒同期がグループで300人くらいいたのですが、リーマンショック後では、100人以下に減るなど、採用規模が違っていましたから。採用の高専枠も減るでしょうし、本当に運良く入社できました。

- 4年間オリンパスにいた後、転職されたのですか?

はい。1年間リビジェンというIT系のベンチャーに転職しました。スマートフォンが普及し始めた頃だったので、スマートフォンに特化したネットリサーチサービスを作っていました。サービス運営などもしましたね。

- そこからマーケティング系に入り始めたのですね?

そうですね。オリンパスにいた社会人3年目には、当時の品質管理の仕事も馴れてきて、主査として仕事もこなせるようになっていたのですが、「自分にはもっと合った役割があるはずだ」とモラトリアム期に突入してしまして(笑)。漠然と自分が得意とする発想力や企画力を活かせる仕事や、社会に大きな影響を与られる仕事に就きたいと思うようになったんですね。その中で今までは本は全然読んでこなかったのですが、いろんな本を乱読しだして、「マーケティングという仕事は、発想や企画ができて社会にインパクトを与らえる。どうやら自分に合っていそうだ」と思い、エンジニアからマーケターに転向しました。未経験可のマーケティング職を募集している会社はそう多くないのですが、この会社は募集をしていたので応募しました。

- それが2013年くらいですか?

そのあたりですね。そこから1年間幅広くウェブマーケティングをやりました。そこからウェルクスに転職し、いろんな社会課題領域の事業のマーケティングなどをしました。

- 社会課題の領域のマーケティングというと、どういったものなのでしょう?

ウェルクス自体は人材系の会社なので、その領域ですね。特に保育、介護などの人材紹介が強かったです。ウェルクスには設立してまもない頃に入社し、自分が退社する4年間に会社が10倍規模で成長したので、学ぶことが多かったです。マネジメントも経験させていただき、事業面では、7つのウェブサイトのマーケティングを担当しました。

- その後に今の会社に入ったのですね。

はい。ホットリンクから声をかけて頂きました。専門的な話になりますが、いわゆる獲得系というニーズが顕在化している人に対してのマーケティングは一定やり切ったなという想いがあり、次にはブランディングなどの認知系のマーケティングの知識を深めたいと思っていました。SNSはブランディングと密接な関係にありますし、何よりもSNSマーケティングはこれから大きく成長していく面白い領域だと思ったので、転職を決めました。

- なるほど。ちなみに元々、ホットリンクはSNSデータ支援の会社ですよね?

そうですね。ブログ、掲示板の時代からのSNSデータ分析の会社でした。そこからお客さんのマーケティング支援などの仕事が入ってきて、ホットリンクとしてもマーケティング支援の領域を強化しようというタイミングで、マーケティングの専門家を集めていたらしく、声がかかりました。

- じゃあ、ベストマッチングだったんですね。因みに、オリンパスからベンチャー側に行ったときのマインドの変化などはありましたか?

マインドの変化のきっかけとなったのは、たぶん社会人3年目の2011年の頃ですかね。その年には、自分のアイデンティティを大きく揺さぶる3つの出来事があったのです。一つは粉飾決算で世界的なニュースにもなったオリンパス事件、二つ目は東日本大震災、三つ目は私の地元の北海道長万部町のゆるキャラのまんべくんのTwitter炎上事件です。会社、国、地元、自分が帰属する3つが危機に陥り、自分に何ができるだろうかと考え続けた年でした。その体験で意識が変わっていったのでしょうね、自らの手で社会を変革する側になりたいと思うようになったのです。そうして、スタートアップやベンチャーに興味を持ち始めました。

- なるほど。大変だったことから、新しい考えが生まれたんですね。大企業からスタートアップ界隈に入って、大企業で経験できて良かったことはありますか?

たくさんあります。例えば、大企業は仕組みが整っているため、属人的にならずに再現性をもって動かしていく方法が学べますし、組織づくりの面においても会社のフェーズに応じてどのように設計したらわかるようになります。私は社員が8000人の会社から、社長と社員含め3人しかいないスタートアップ、10数名規模から200人規模まで一気に成長したベンチャーを経験できたので、あらゆる規模感の組織運営を学べた経験が大きいです。

高専生、柔軟なアイデアで暴れまくれ!

- これまでの経験を踏まえて、高専にいて良かったこと、悪かったことを教えてください。

良かったことは、高専には一つのことを極めているヤバい人がウヨウヨいますよね。天才の特徴というか、個性あるハイパフォーマーとの接し方がわかりますし、一つのことを徹底的に極めることってキャリア的にも重要で、その考え方でスキルを積み上げることに抵抗がないのが良い点だと思います。
悪かったことというか高専の弱点としては、強みの裏返しにはなりますが、普通の大学よりも教養をあまり学ばないことですかね。あとは高専卒という学歴に関する社会の評価もまだ低いと思い、転職活動においても学歴フィルターで高専卒が引っかかってしまったり、会社によっては大卒より高専卒の昇給や昇格スピードが遅かったりすることもありますよね。

- そういうこともあったんですね。では、最後に学生にメッセージをお願いします。

自分は高専にいるときから、5年後、10年後を見据えてきた訳ではないのですが、今振り返ってみると、高専で学習したコンピュータサイエンスや、統計学が活きているという実感があります。最近の高専ではハードウェアとソフトウェアのどちらも学ぶことができる学科があるので、これからのIoT時代、AI時代には、ハードとソフトを両方学んだからこそ浮かぶアイデアや、小さく実験して試していくマインドを積極的に活かしていくと、社会に喜ばれるかなと思っています。高専生のこれからの暴れ方を楽しみにしています。

- ありがとうございました!

執筆:北原雄太(高専マガジン)