「高専に任せろ!」連動企画 〜全国高専生アンケート調査結果レポート〜



「高専に任せろ!」連動企画 〜全国高専生アンケート調査結果レポート〜
  • Curious編集部

Abstract

本レポートは、2019年秋に独立行政法人国立高等専門学校機構に所属する高専1年生から専攻科2年生を対象に、日本経済新聞社メディアビジネスクロスメディアユニットが実施したアンケート結果に、高専キャリア教育研究所として独自の考察を行ったものである。

アンケート内容は全国高専の特徴抽出を目的とした「イマ編」と、就職/進学などのキャリアについて探ることを目的とした「コレカラ編」から構成されており、19高専から1,354名の回答結果を取得した。
「イマ編」では、入学動機、学校生活、部活動などについて質問し、寮生活、ロボコン、文化祭など高専に特徴的な文化を知ることができた。「コレカラ編」では、就職/進学志望の状況や就職先に求める条件などについて質問し、学生のキャリア形成のスタンスについて幾つかの知見を得ることができた。

なお、アンケート回収率は全学生の2.5%であり、高専毎の回収率にもばらつきが存在したため、地域特性や各高専の各論については最低限の考察に留めた。一部アンケート結果については本レポートの対象外としてデータを提示していないものもあるため留意いただきたい。また、文章構成上「Surveys an results」内に考察及び感想を含む場合があるのでそちらも留意いただきたい。

Surveys and results

イマ編

1. 高専への入学動機

「高専に進学しようとした理由」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.1より、「全体の18%の学生は家族(一部親族)に高専出身者がいる」「概ね半数の学生は自分で調べて入学した」という事実が明らかとなった。「中学校の先生に薦められた」については学年が下がるほど割合が減っている(5年生23%に対して1年生14%)。原因は不明だが、高校の入学者募集競争の影響などがあるのかも知れない。

フリーコメントを整理すると3つのポイントが抽出された。
まず、オープンキャンパス、学校説明会、公開講座、文化祭などのイベントで高専に興味を持った学生が一定数いることがわかった。高専の魅力を中学生や保護者に伝える取り組みを推進していくことは、高専全体の学生確保において重要な施策となるであろう。

次に、「プログラマになりたかった」「モノづくりが好きだから」「ロボコンに興味があった」など、入学前からモノづくりに興味を持つ学生も一定数いた。大学受験もなく、5年間しっかりと工学の教養と実践的な技術を身に付けられる高専の価値は、こういった学生に最も向いていると筆者は考える。

最後に、「学費が安いから」「奨学金がもらえたから」など、金銭的メリットで高専を選択した学生もいた。国立高専は、モノづくりに関する高度な教育を年間23万円程度の授業料で受けることができ、卒業までにかかる費用の合計も約160万円と、公立高校から国立大学に進学した場合よりも費用は抑えられる。また、就学支援金や奨学金なども整備されており、経済的理由で工学を学べないという機会損失に対するセーフティーネットとして機能していることが窺えた。

2. 学食

学食のメニューや雰囲気の満足度」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.2より、約半数の学生は学食に満足していることが明らかとなった。当社が行っているTwitter観測結果とは多少異なる結果だが、美味しさと満足度の尺度の違いであろう。学年が上がるほど「大変満足」が減少しているが、メニューのリニューアル頻度が低いことからくる倦怠感だと思われる。筆者としては、限られた予算の中でこの満足度を達成している学食の事業努力に尊敬の念を覚えるものである。

フリーコメントを整理すると、各高専共に「うどん」「カレー」「ラーメン」が絶対的人気メニューであることが明らかとなった。 また、日替わり定食(Aランチ)も、バランス・コスパ共に良いと評判である。個別の回答としては、米子高専では唐揚げにタレをかけた「高専丼」が人気であり、沖縄高専では「沖縄そば」が提供されていることも判明した。当社CTO(沖縄高専卒)に確認したところ「タコライスもあります。」とのこと。

3. 通生/寮生

「通生/寮生の割合」及び「通学時間」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.3より、全体の7割は通学生で、3割が寮生であることがわかった。学年が上がるにつれ「通学生」及び「その他」が増加しているが、筆者の経験より「高学年になり下宿許可を得た層」と「退寮になり下宿あるいは自宅通学を開始した層」のいずれかで間違いないであろう。

Fig.4を見ると、全体の7割の学生は1時間以内の通学時間であることがわかる。この点は解釈が難しい。高専は各都道府県に1つ以上の頻度で設置されているため、それほど遠方から通学する学生がいないと考えることもできる。一方で、高専は基本的に下宿を推奨していないケースが多く、その点が影響している、つまり、通学圏外から入学することが難しいためこのような結果になっている可能性もある。大学の場合、遠方から入学して下宿するケースが一般的であることを考えると、入学者の地域分布は高校に近いのかも知れない。

4. 寮でのユニークなルールや伝統

「寮でのユニークなルールや伝統」についてフリーテキストでのアンケート結果を得た。こちらについてはそのままの記載が憚られるものが多いため、全体をまとめた文章として以下に考察を記載する。

寮生活では全国的に上下関係がしっかりしている傾向があり、特に「礼儀正しい挨拶」の指導はほとんどの高専で共通して行われていることが明らかとなった。筆者も高専時代に寮生活を送っていたが異論はない。また、東北地方の高専に訪問した際に「90°の最敬礼と挨拶」という洗礼を受けたが、おそらくその学生も寮生であろう。礼を尽くすことは日本の美しい文化であるが、ぜひ、お互いの合意のもとでの指導を推進していただければと思う。

高専毎の独特な文化をいくつか紹介する。

北海道の高専では、夕方の挨拶が「おばんです」という文化がある。2つの高専からの回答があり、片方は男子のみそういった挨拶が推奨されているそうだ。

熊本高専の回答からは和気あいあいレベルの高さが滲み出ていた。毎月寮のイベントが開催されており、スプラッシュ祭り、BBQ、夏祭りなどを全寮生で楽しんでいるそうだ。女子寮ではお茶会が開催され、学年関係なく女子学生が和気藹々と楽しんでいる。

広島高専では毎年「かき氷大会」が開催されている。

米子高専では「無礼講」と呼ばれるイベントがあり、低学年の学生が高学年の先輩に水を掛けながら文句を言っているとのこと。

各校様々な文化を自ら作り上げており、今後とも寮文化の更なる進化に邁進して欲しいと思う。

5. 部活動

「部活動の盛り上がりと所属率」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.5より、全体として高専の部活動の盛り上がりは「まぁまぁ」という状況が明らかとなった。

Fig.6より、大半の学生が何らかの部活に所属していることがわかる。多くの高専では1年生で部活への所属が必須であり、その影響が大きいであろう。学年が上がるにつれて無所属の学生が増えているが、これは、単純な退部だけではなく引退しているケースも多いと考えられる。高体連に所属する運動部では3年生が一つの節目になるし、4年生で引退する部活もあるためである。

フリーコメントでは所属部名を取得した。テキストや部活名の揺らぎを調整した結果より、2つのランキングを提示する。

所属人数が多い部活TOP5

  1. バスケットボール部
  2. サッカー部
  3. ロボコン部
  4. 吹奏楽部
  5. 陸上部

上記ランキングで特筆すべきはやはりロボコンであろう。高校/大学でも人気のある運動部と文化部が並ぶ中で、高専らしい部活が上位にランクインしている。ちなみにプロコン部は31位の結果であった。

盛んだと思う部活TOP5

  1. ロボコン部
  2. 陸上部
  3. 野球部
  4. 卓球部
  5. ハンドボール部

周囲から見た盛んだと思う部活のランキングでは、見事にロボコン部が1位を獲得していた。日夜汗を流しながらロボットを製作し、全国大会を目指して血反吐を吐きながら取り組む姿に、全高専生が泣いているであろう。

その他、所属部活でユニークだったものを以下に記載する。

スターリングエンジン部
(スターリングエンジンをどうするというのであろうか)

ラズベリーパイ同好会
(ラズパイはみんな好きですよね)

高専FabLab
(学内にFabLabを作ったのでしょうか?)

6. 学内でユニークなもの、特色のある行事

「ユニークなものや特徴のある行事」についてフリーテキストでのアンケート結果を得た。様々なコメントがある中で圧倒的な人気を誇ったのは「高専祭(文化祭)」であった。以下にその概要や高専毎の特徴をまとめる。

高専祭が人気である理由はその自由度の高さである。「高校と違い学生が自由に企画運営できる」「大学と違い有名人に頼らず自分たちで盛り上げている」とコメントされているように、学生主体の実行委員会が設置され、予算管理、部門構成、学内調整、渉外活動、企画など全ての活動が自主的に行われている。また、高専祭の企画では「高専生らしさ」が究極的に体現されており、高専生の技術レベルやオタク気質が最大限発揮されている。以下、その特徴を現す学生のコメントをそのまま掲載する。

  • 「食べ物の種類も豊富だし、コスプレしてる人とかも多くて見てて面白い」(函館高専)
  • 「蒼阿祭で行われる、「蒼阿祭にアニクラを求めるのは間違っているのだろうか」というアニソンを流すクラブイベントを、全国の高専で唯一行っているから。」(阿南高専)
  • 「イベントではプリ電と呼ばれる女装大会やカラオケ大会、クイズ大会などがある」(熊本高専)
  • 「お笑いやゲーム大会、ライブや癒し系(歌対決)やメイクミラクル(女装コンテスト)などバラエティに富んでいる」北九州高専
  • 「女の子の格好をした男子校先生が見れます」(北九州高専)
  • 「毎年4学年が学科ごとに映画を撮ったり、ミスコン・女装コンテストがある。」(福島高専)
  • 「クオリティの高いコスプレが観れる」(沖縄高専)
  • 「やばい」(旭川高専)
  • 「学生によるライブやバザーもたくさんあり、学科ごとの特色がある展示物やピタゴラ等、来た人が凄く楽しめると思う」(有明高専)
  • 「科展などの高専らしいイベントがたくさんあるから」(米子高専)
  • 「運営である学生会がデジタル技術を使いこなして、効率的に運営できていてとてもレベルが高いからです。」(函館高専)
  • 「今年からeスポーツの導入で大いに盛り上がった」(函館高専)
  • 「プログラミングなどをいかし徳山高専らしいから。」(徳山高専)
  • 「ジェットコースター、専門展示など技術を内外に知らしめる行事だから」(阿南高専)

その他、各高専でユニークな行事を記載する。

米子高専のちくわギネス挑戦
https://www.yonago-k.ac.jp/doc/update/3697

旭川高専物質工学科5年の「学生 vs 教員」
https://buzzmag.jp/archives/94036

福井高専の「クラシックコンサート」
「自分では参加しないような本格的なコンサートを楽しめるから」とのこと

福井高専の「スマブラ最強決定戦」
全国大会やりたいですね

後期期末テスト
「人の絶望する姿が見られるから」とのこと

コレカラ編

7. 卒業後の進路

「卒業後の進路」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.7より、全体としての進路意向は「就職55%」「進学43%」となり、実績値(就職6割進学4割)に近い意向度であることがわかった。5年生の回答結果を切り取ると、「就職61%」「進学38%」となり実績値とだいたい一致する。就職率は4,5年生になると上昇しており、5年生では60%に達する。4年生のインターンで初めて「社会で働くこと」を意識するため、高学年になると就職の意向が高まるのかも知れない。また、大学編入の意向は4,5年生で下降しており、その差分は専攻科進学と就職に分配されている。進路を真剣に考える中で、「早めに就職したい欲求」や「いまの研究を継続したい欲求」が生まれるのかも知れない。また、編入学の難易度を知りプランを変える人もいるだろう。

フリーコメントでは「その他」の詳細が回答されており、専門学校(6名)、起業(2名)、留学(2名)、フリーランス(1名)、バックパッカー(1名)という回答があった。高専生にとって王道ではない選択肢だが、「どの選択肢が正解」というものはない。「自分で選んだ選択を正解にする」ことが人生では重要なので、どの選択肢を進んでも頑張って欲しい。

8. 就職先地域の意向

「就職先地域の意向」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.8を見ると、多少のばらつきはあるものの「地元20%」「都会45%」「どこでもよい29%」という結果が得られた。高専毎の地域差も確認したが、どの高専も同様の結果であった。フリーコメントでは海外(アメリカ、東南アジア、中国、など)就職の希望が少数ながらあった点も補足しておく。

フリーコメントをまとめると以下のようになる。

まず、地元で働きたい学生は「家から近い」「自宅から通勤できる」「慣れ親しんだ土地だから」という利便性観点での判断が多く見られた。一方、都会で働きたい学生は「地元を出たいから」「都会に憧れているから」「これまでにない経験をしたいから」という、地元を思考する学生とは反対の理由で都会を目指すコメントが多かった。「稼ぎたい」「技術を磨く場が多い」「大企業が多い」「様々な選択肢があり経験値が上げられる」など、比較的挑戦的な考えを持つ人が都会志向であることも伺えた。「どこでもよい」「その他」を選択した学生の大半は就職先について深く考えていない層であったが、「日本より給与の高い海外で働くつもり」「新興国で問題を抱えている子ども達をサポートする仕事に携わりたい。」「手作りのもの家具や陶器等を作ることが好きなので、その道の職人になりたい」など、社会に出た後のイメージを解像度高く持っている学生が少数だが存在していた。

9. 就職先企業に求める規模

「就職先企業に求める規模」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.9を見ると、学年によるばらつきが大きいが、全体としては「大企業45%」「中堅・中小企業12%」「どちらでもない43%」という結果となった。

フリーコメントからは学生が大企業や中堅・中小企業にどんなイメージを持っているかが浮き彫りとなった。大企業を希望する学生では、「給与が高い」「福利厚生が充実している」「大企業というブランド」「安定したワークライフバランス」「潰れない安心感」といった「安定した環境でゆとりを持って働ける」という視点のコメントが多かった。少数派ではあったが、「大きな仕事ができる」「様々な人と関わることで成長できる」という成長志向のコメントもあった。

一方、中堅・中小企業を希望する学生では、「楽しそう」「自分のやりたい仕事ができそう」など、自由や裁量を求めるコメントが多かった。また、「大企業では歯車になってしまう」「大きな組織が自分に合っていない」といった、大手企業の窮屈さを懸念する声も上がっていた。大きなシェアを占めている「どちらでもよい」を回答した学生のうち約半数は「こだわりがない」「考えていない」状況であった。しかし、「重視しているのは仕事内容であるため、規模は関係ない。」「社会に貢献できるような仕事や、意義のある仕事であればいいため。」のような、規模感ではなく「実際に何ができるのか」を判断軸としている学生も約半数いた。

「大手 vs 中小」「大企業 vs ベンチャー」のような構図で大人は就職活動を語りがちだが、本質的には「やりたい仕事をやってしっかり稼ぐ」ことが重要である。そういった観点で見ると、大半の学生が(周囲の影響を受けて)イメージ先行で企業を見ているという実態が浮き彫りとなった。しかし、少なからぬ学生が「自分にとって意味のある仕事ができる場所を選びたい」と考えている点は特筆すべきだ。全学生がそういった考えが持てるよう教員の方々にはお願いしたい。

10.ベンチャー企業への就職意向

「ベンチャー企業への就職意向」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.10を見ると学年によるばらつきが大きいが、全体としては「就職したい16%」「就職したくない18%」「どちらでもよい66%」という結果となった。学年別にコメントを見ると、就職を意識する4,5年生になるほど「安定した企業」への就職意向が高まっており、そのためベンチャー企業への意向度が下降していると考えられる。

他のアンケート調査では大学生でも同様な結果が得られているが、社会全体がスタートアップやオープンイノベーションに力を入れているトレンドを鑑みると、学生全体が比較的保守的な志向であることが窺える。また、「就職したくない」「どちらでもよい」と回答した大半の学生が「ベンチャーをよく知らない」という回答であったため、そういった側面でのキャリア教育や就職支援を行う必要はあるであろう。

フリーコメントを見ると、「就職したい」と回答した学生からは、「どこにもない新しいサービスなどを提供したいと思うから。」「既存のものだけでなく新規に取り組むことを想像すると楽しそうだと思ったから。」「新しいことに挑戦するときはいつも胸が高鳴るので、毎日ドキドキしたいです。」など、新しいことに挑戦したいという意思を持つ学生が大半であることが窺えた。「就職したくない」と回答した学生は、「ベンチャーはリスキーなため」「ベンチャーに就職している知人からの話を聞く限りでは、ブラック企業のイメージが強いから。」といったコメントが多かった。

11. 働く上で大切な価値観

「働く上で大切な価値観」について以下のアンケート結果を得た。

Fig.11より、働くにあたっては「お金が稼げること」「楽しく働けること」「ワークライフバランスが整っていること」を圧倒的に重要視することがわかった。一方、Fig.12を見ると、就職先企業に求めるイメージとしては、「給与・待遇が良い」「安定している」が最も重視されていた。2つのアンケートは、学生の価値観を映し出している点で明快な結果となったが、前述の通り「学生の企業に対するイメージ」に引きづられている面もあるので解釈には注意が必要だ。例えば、学生は「楽しく働けること」を重要視しながら「安定している」ことを企業に求めているが、両者は必ずしも一致しないなどである。

Discussion

本レポートでは、「社会的にあまり知られていない高専生活」と「高専生のキャリア感」を明らかにすべく、全国高専生へのアンケート調査を基にその実態に迫った。以下に、アンケート結果をベースにいくつかの論点について考察を記載する。

1. 高専生の生活は、全体として高校生や大学生と同様である

「高専てなに?」とは、全高専生が幾度となく質問される常套句である。6-3-3-4制の教育システムから逸脱し、中学卒業時から5年間の一貫教育というイレギュラーなプロセスを邁進する高専生の生活は、一般の人々から見ると秘密のヴェールに包まれた存在だ。しかし、アンケート結果を見ると、技術の強さとオタク性を除けばごく一般的な高校生や大学生の生活をしていることがわかる。

例えば、学食では「うどん」「カレー」「ラーメン」が鉄板の人気メニューであり、高専生の食の指向性は普通である。一部の学生からは「3度の食事よりモンスターエナジー!」という声が聞かれるが、大多数の高専生は一般的な食事をとっている。また、部活動も大半の学生が世間的に人気のある運動部(バスケ、サッカーなど)や文化部(吹奏楽など)に所属しており、「ロボコン」「プロコン」などの特色ある部活を除けば、全体としては普通の高校生や大学生と同じように活動している。高校生と同じように、大半の学生は1時間程度の通学を経て高専に通っており、本アンケート外の情報ではあるが、放課後は普通にコンビニでアルバイトをしたり、普通に友人同士でカラオケやゲームセンターに行ったりもしている。高専に進学すると高校生や大学生と交流する機会が少ないため、謎の学校として扱われることが多い。しかし、ほとんどの学生は普通の高校生や大学生のように生活していることをここに記しておきたい。

2. 高い技術力と実践力、そして自由な環境が生み出す特異点的な活動

一方、高専らしい特徴ももちろん存在する。

最も知名度を得ているのは「ロボコン」であろう。高専ロボコンはNHKでも放映される風物詩的なイベントとしてのポジションを確立しており、近年こじるり(小島 瑠璃子さん)が司会を務めることで更にその知名度を上げている。ロボコンに関わる高専生は全体の5%弱ではあるが、その熱量と技術力は既に世界に通用するレベルである。高専生界隈では「血反吐タイム」「次元を歪めて納期に間に合わせる」などのフレーズが日常的に使用されており、スタートアップのCTOも青ざめるほどのコミットメントでロボットを製作している。知名度ではやや劣るものの、高専プロコンも同様の様相を呈しており、両コンテストで磨かれた戦士たちは、大手企業からスタートアップまで、テクノロジストを求める企業から常にオファーが殺到している。

また、本アンケートで圧倒的な人気を誇った「高専祭」も、一般的な高校・大学とは様相を異にする。「ラブライブのライブ」に代表されるように、高い技術力とオタク性を全開に解き放った2次元的ライブイベントが各地で模様されており、筆者の母校である東京高専でも一昨年前に「初音ミク」のライブが開催されていることがTwitter観測により判明している。

3. 高専生が社会・企業に持つイメージの誤謬

「コレカラ編」では、高専生が社会・企業に対してどのような認識を持っているのか、そして就職先に求めることなどを聞き出すことができた。

全体として、「8割の学生は安定した人生を望んでいる」「2割の学生はチャレンジングな人生を望んでいる」といった印象を受けた。筆者は普段、「高専生を挑戦者に!」というスローガンで仕事をしているが、「自分が納得できる人生を歩む」ことが最も重要なので、ここでは学生のキャリア感について評価することはせず、学生の認識と社会の実態の乖離点について考察してみたい。

まず、多くの学生が持っている、「大手企業 = 安定・稼げる・遇が良い」、「ベンチャー = リスキー・ブラック」という認識が正しくなくなってきていることを述べたい。

ここ数年、誰もが知る大手企業の「経営破綻」「事業売却」「モラルハザード」などのニュースが頻繁に流れている。また、今年トヨタ自動車の社長が「終身雇用は難しい」と発言したことが話題となったが、大手メーカーでは「新卒採用の縮小」「中途採用強化」「早期退職推進」が当たり前のように実施され始めている。つまり、学生や教員や親御さんが考えているような「大手は安心」という神話は事実上崩壊しているのである。さらに、高専にある求人票の多くは「高専卒は18万円」「大卒は21万円」「院卒は23万円」という給与テーブルを採用しているが、それなりに成長したベンチャー企業に入れば「学歴不問で25万円」などが当たり前となっている。ITベンチャー大手Yahoo!の新卒採用ページを確認したところ、「高校・高専・専門・短大・学部卒は約264,165円/月」だっだ。この内容は、学生にベンチャー企業を勧めるために書いているのではない。単純に、「誰もが知ってるあの会社が普通に潰れる時代」であり、「ベンチャー企業の待遇が大手メーカーを上回るケースが出てきた」という事実を記したのであり、就職や転職を考える際には前提条件として知っておく必要がある。

次に、「楽しく働きたい」は結構難しいという話をしたい。

働く上で大切な価値観のアンケートでは「楽しく働きたい」の回答数が最も多かった。当たり前の話だが、人は「自分が幸せになるために生きている」のであり、仕事の中で楽しさや幸せを追求することは全くもって推奨されるべきである。ところで、「楽しく働いている」とはどういう状態だろうか。「楽しい」は感情の一種なので、あなたが楽しいと思えば当然あなたは楽しい。従って「あなたが楽しいと感じる物事は何か?」という問いに答えることが、楽しく働くための処方箋となる。例えば筆者は、「好奇心が強く、新しいことを考えたり作ったりすることが好き」なので、事業開発やイノベーションという仕事が向いている。また、「自分の意見を曲げることが下手くそかつ感情がすぐ顔に出る」ので、官僚的組織で働かない方がいい。「目立ちたがり屋で実行力も高い」ので、組織ではリーダーの役割を担うとよい。このように、「どんな仕事をどんな環境でどのような立ち位置ですると楽しいか」は、これまでのあなたの人生を振り返ることである程度予測することが可能だ。

ここで問題になるのが、「あなたが楽しいと思うことをやらせてくれる会社はどこか(むしろあるのか)」である。就職活動を経験した人はわかると思うが、基本的に企業はあなたのためでなく会社のために採用活動をしているので、スキルが高かったり忠誠心の高そうな人を採用しがちだ。学生も「とりあえず内定をもらうこと」を最重要視するケースが多く、結果として、お互いに深く知りもしないまま履歴書と企業パンフレットを見ただけで結婚している状態が生まれる。当然だが、このパターンで入社後に「楽しい仕事が待っている」確率は低い。本来は、自分の幸せの定義をしっかりと持ち、その軸をしっかりと企業とすり合わせれば良いのだが、お互いに時間がないのでそれが難しい。

はっきり言って、社会で「いつも楽しく働いている」人は数%だと思った方がいいだろう。それくらい、「楽しく働きたい」を実現することは難しいということを認識し、楽しく働くために努力を怠らないことをお勧めする。

Editor's note

本レポートは、日経新聞社より提供いただいたアンケート調査結果を「面白おかしく」「ためにもなるように」まとめようと努力したものである。サンプル数が少ないため「これが正しい情報」と言い切ることはできないが、イマドキの高専生のイメージが解像度高く掴めたのではないかと思う。高専生の実態を知りたい方々の参考に少しでもなれば幸甚である。

また、筆者にとっておよそ10年振りのレポート提出であり、稚拙な表現や浅い考察などが散見されていることをここにお詫びしたい。間違い、不適切な表現、その他気になった点があれば修正するので、お気軽に連絡いただければ幸いである。

Author
りゅーかん(@RyuhiKanno